相続コラム

「相続税」のコラム

今までの記事と内容が重複する部分がありますが、極めて重要な考え方ですので、あえて述べたいと思います。


例えば次のようなケース。

あなたが税務署の立場だったら、どう思いますか?


【ケース1】

亡くなった元経営者(男性)の財産、およそ1億円。

その妻の財産も、同じく1億円。

しかし、その妻は、夫の事業を手伝ったことは一切なく、専業主婦であった。


【ケース2】

亡くなった大地主(男性)には、一人娘がいた。

その娘は生まれつき体が弱く、ほとんど働くことができず実家で家事手伝いをしていた。

なお、その娘の預金口座には、1億円の残高があった。


おそらく誰もが、

「働いてないのに、なぜそんなに財産があるのだろう?」

「亡くなった人から財産を譲り受けたのではないか?」

「ちゃんと贈与税の申告はしているのだろうか?」

「贈与が成立していない(名義預金)のであれば、故人の相続財産になるのでは?」


と思うはずなのです。


人の財産が形成されるプロセスは、大部分が「働いて得たもの」でありましょう。


この人は、毎年の手取り年収が○百万円であった。

であれば、この人の財産はおよそ○○○円であろう、ということは大体見当が付きます。

専業主婦など働いてない人は、一部の例外(親から多額の財産を相続した等)を除き、そんなに多額の財産があるはずはないのです。


にも関わらず、多額の預金残高があったとしたら、誰か近い肉親から財産の移転があった、と推測されるのは当然であり、そこから税務署に目を付けられる、ということになるのです。


夫婦間、親子間の財産の受け渡しは、どうしてもルーズに考えがちです。

しかし、「これは贈与税がかかるのではないか」という気持ちのアンテナを常に貼っておくべきでしょう。さもないと、相続の際に、それらの税問題が一気に噴出してしまうことになります。


夫婦間、親子間で財産の受け渡しをする際には、必ず事前に税理士に相談するのがベターです。



誰だって、自分の子や孫は可愛いものです。


私も娘が二人おりますが、もう可愛いを通り越して、食べてしまいたいぐらいです。

私の両親も、孫(つまり私の娘)二人を、もう一瞬でも目を離すとガブリと食べ始めかねない勢いで愛でております。


我が愛する子に、そして孫に、少しでも財産を残してあげたい、という想いは、人間として当然のことでありましょう(子孫に美田を残さず、という格言もございますが、まあそれはそれとして・・・)。


ですので、その行為自体は決して悪いことではありませんし、咎めるつもりは全くないのですが、そのような行為には常に税金の問題が付きまとうものである、ということは理解しておく必要があります。


相続の実務上よくあるパターンは、亡くなった方が生前に孫名義の預金口座を作り、自らの財産をせっせと送金していた、というものです。

このようなケースは、ほぼ間違いなく、その孫自身は全くその行為を知らなかった、あるいは知っていたとしても、その預金を好き勝手に使うことができなかった(つまり通帳や印鑑はその亡くなった人が管理しており、実質的な管理支配権は孫には無かった)、という状態にあるのが普通です。


そのような孫名義の預金口座は、形式上は孫名義であったとしても、実質的には亡くなった人の財産であったものとして相続財産に加える必要があります。



ですので、相続財産を調査する際においては、その子や孫の名義の財産にも注意を払う必要があるのです。未成年の孫名義の預金残高が異常に多い場合は、間違いなく上記のようなパターンの財産移転行為があったと考えるべきでしょうし、あるいは既に成人して働いている子であったとしても、その年収と比して明らかに多額の預金口座があったとしたら、上記と同様に考える必要がありましょう。


前回と今回で色々と面倒なことを述べましたが、要するに、亡くなった人名義だけではなく、その身内名義の預金口座なども相続財産となる可能性がある、つまり税務調査で狙われる可能性がある、ということは、しっかりと頭に入れておくべきでありましょう。



相続税申告の税務調査で、税務署側が真っ先に疑うのは「家族名義預金」です。

その中でも特に、


1.配偶者(妻)名義の預金口座

2.子名義の預金口座

3.孫名義の預金口座


の洗い出し(つまり取引銀行への反面調査)は徹底的に行われると思って間違いないでしょう。

今回は、その中でも特に上記1について解説します。


一つの例を挙げましょう。

配偶者(妻)は若くして結婚し、その後はずっと専業主婦でした。両親は特に資産家というほどではなく、両親の死後は僅かな財産を相続したのみ。

そして、夫(会社経営者であり、一代で相当な財産を築き上げた)が死去。その時点で、彼女の預金口座には数千万円の残高がありました。

さて、この事例を読んで、どう思われるでしょうか。

恐らくは100人中100人、「夫が妻にせっせと財産を渡していたのだなあ」と思うことでしょう。

そのこと自体は、特に道義的には悪い事ではありません。が、我が国の法律上、その行為には何らかの課税がなされることになります。


どんな課税がなされるかといいますと、二つのパターンが考えられます。


まず、その行為があったことを妻が以前から承知しており、かつその預金を妻が自由に使える状態にあった場合。

その場合は、その預金残高の実質的な所有権は妻に移転したものであると認識されますので、その時点に遡って贈与税が課されます。

贈与税の時効は6年です。6年を超えたら納税義務は逃れられますが、越えてない場合は課税されると同時に、延滞税と加算税が賦課されます。


そして二つ目、その行為自体を妻が知らなかった(夫が妻に知らせず、勝手にやっていた)、あるいは知っていたが、通帳と印鑑は夫が管理しており、実質的な所有権は妻の側になかったものと判断される場合。

このような場合は、その預金口座の形式上の名義は妻ではありますが、実質的には夫の財産であると判断されますので、夫の遺産となります。

つまり、相続税が課されます。


両親から莫大な遺産を相続したわけではなく、かつ働いて稼いだわけでもないのに、なぜか配偶者の財産が異常に多い、という場合は、まず真っ先に税務調査のターゲットとなるでしょう。

相続税申告の前に、配偶者の財産形成がどのようにしてなされたのかをしっかりと押さえて、税理士とよくよく打合せたうえで申告に臨みましょう。



相続税は、他の税目と比較すると、非常に税務調査が入りやすいです。

全申告件数の約3〜4割が税務調査の対象となっており、その大部分(8〜9割)が何らかの形で修正申告する結果となっております。


相続税の申告といっても色々なパターンがあります。

その中で、一体どのような内容の申告であれば調査の対象となりやすいのか。

私なりの拙い経験から、まとめてみたいと思います。



まず、故人の預金口座から頻繁に現金が引き出されているケース。

これは遺産総額の規模に関係なく、問答無用で調査の対象となります。


逆の立場で考えてみましょう。

もしあなたが税務調査官であったならば、そのような預金口座の動きをみて、どう思うでしょうか?


「他の人(子や孫など)名義の口座を開設して、その口座にお金を移し替えて財産隠しをしているのかも・・・」

「自宅に大きな金庫を買い入れて、その中に現金を隠し持っているのかも・・・」

「スイスの秘密口座に送金しているのかも・・・」


最期は半分冗談としても、大体こんなところでしょうか。


要は、意図的に財産を減らして相続税逃れをしてないか、と疑われてしまうのです。

そうなりますと、税務署としては、まず金融機関の反面調査を開始するでしょう。つまり故人、その相続人など身内関係者の名義口座(各銀行、ゆうちょ、証券会社など)を片っ端から調査します。そしてその現金の行先が分かると、ほくそ笑みながら相続人に電話をして、「ご自宅で一度お話を伺いたいのですが・・・」という事態になるのです。


反面調査の結果、もし現金の行先が分からなかったとしても、それはそれで相続人への調査は必ず行われます。相続人から直接色々と質問を投げかける、あるいは自宅の内部を観察することによって、その行先が判明することがあるからです。


私は税務署の手先ではありませんので、上記の通り述べることによって納税者の皆様を驚かせるのは本意ではありません。

要は、そのような事態になっても正々堂々と胸を張れるように、適正な申告を事前に行えばよいのです。


払うもの(=税金)はきちんと払う、という気持ちをしっかりと持って、その現金の引き出しがどこにどう消えたのか、身内に贈与したのか、身内名義の預金口座に移したのか、それとも自宅の金庫に眠っているのか、知り得る限りの情報を税理士に伝えて、適正な処理を行えばよいのです。


例えば、故人が浪費家であり、頻繁に現金を引き出してパチンコ三昧であった、あるいは愛人に貢いでいた、しょっちゅう旅行に行って買い物をしまくっていた、というような事実があるならば、そのような個人の浪費は税金がかかる行為ではありませんから、その旨を税理士なり税務署なりに伝えればよろしいです。


いずれにしても、このようなケースは間違いなく税務署に目を付けられて調査が入りやすい、ということだけは押さえておきましょう。



一般家庭において、例えばちょっとした庭をつくり、木を植えたり池を掘ったりしているケースは少なくありません(まあ私のようなマンション住まいには縁のない話ですが・・・)。


これらにつきましても、有形の財産であることは間違いありませんので、相続が発生した際には相続財産として取り扱われます。


では、相続税の計算上、どのように評価すればよいのでしょうか?

財産評価基本通達においては、次のように定められております。


財産評価基本通達92(3) (付属設備等の評価 - 庭園設備)

庭園設備(庭木、庭石、あずまや、庭池等をいう。)の価額は、その庭園設備の調達価額(課税時期においてその財産をその財産の現況により取得する場合の価額をいう。以下同じ。)の100分の70に相当する価額によって評価する。


噛み砕いて説明しますと、「その庭と同じものを新たに作る場合における支払額の7割」を評価額とする、ということです。


理屈は分かりました。


さて、現実問題として、この規定をどこまで厳密に適用すべきか、という議論になります。

「そんなこと言っても、ウチの庭なんて猫の額(ひたい)ぐらいの広さしかないんだけど。せいぜいトマトなど家庭菜園をちょこっとやってるだけだし。こんなものをいちいち評価しなきゃならんの?」「土地は路線価とかで評価するんだから、それと一緒でいいじゃん。」とお感じになる納税者様は多いでしょう。それは至極ごもっともなご意見だと思います。


この問題につきましては、法律上明文化されたものではありませんが、我々実務家の間でほぼ通説になっている考え方がございます。それは・・・

「メチャメチャ豪華な豪邸の庭園は個別に評価する必要があるが、そうでなければ(つまりネコのヒタイ程度であれば)評価する必要なし!」というものです。


さて、ここで次の議論が登場します。

「豪華なものと、そうでないものって、どこで線引きすればよいのか?」というものです。

世の中に存在する庭園が「明らかに豪奢な庭園」と「ネコのヒタイ」だけであれば話は楽ですが、そう単純ではありません。どちらにも解釈できる微妙な立場の庭園もあるでしょう。こればかりは、納税者、税理士、税務当局の、いわゆる「解釈」に任せるしかありません。納税者が「ネコのヒタイだ!」と言い張るのであればその旨申告すればよし、その後の税務調査で調査官が「いや立派な庭園だ!」と言い張るのであれば、最終的には法廷の場で決着をつけるしかありません。

人間の価値観は多種多様なので、こればかりは致し方ありません。


さて、またまた次の論点です。

「調達価額の7割、は分かったけど、その調達価額ってどうやって算定するの?」

これは実務上、非常に難しい論点かもしれません。

その庭園をいくらで作ったかなんて、いちいち請求書や領収書を保存しているワケありませんし。

現実的には、専門の業者さんに来てもらい、「これと同じものを作るにはいくらかかるんでしょうね?」と、鑑定書なり見積書なりを作成してもらうしかないでしょう。


なお最後に、この庭園の評価に関しては、意外と税務調査で論点となる事例が多いようです。

ご自宅の庭が少し立派なものであるならば、それなりの心積もりをしておく必要がありそうです。



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