相続コラム

「2012年10月」のコラム

今までの記事と内容が重複する部分がありますが、極めて重要な考え方ですので、あえて述べたいと思います。


例えば次のようなケース。

あなたが税務署の立場だったら、どう思いますか?


【ケース1】

亡くなった元経営者(男性)の財産、およそ1億円。

その妻の財産も、同じく1億円。

しかし、その妻は、夫の事業を手伝ったことは一切なく、専業主婦であった。


【ケース2】

亡くなった大地主(男性)には、一人娘がいた。

その娘は生まれつき体が弱く、ほとんど働くことができず実家で家事手伝いをしていた。

なお、その娘の預金口座には、1億円の残高があった。


おそらく誰もが、

「働いてないのに、なぜそんなに財産があるのだろう?」

「亡くなった人から財産を譲り受けたのではないか?」

「ちゃんと贈与税の申告はしているのだろうか?」

「贈与が成立していない(名義預金)のであれば、故人の相続財産になるのでは?」


と思うはずなのです。


人の財産が形成されるプロセスは、大部分が「働いて得たもの」でありましょう。


この人は、毎年の手取り年収が○百万円であった。

であれば、この人の財産はおよそ○○○円であろう、ということは大体見当が付きます。

専業主婦など働いてない人は、一部の例外(親から多額の財産を相続した等)を除き、そんなに多額の財産があるはずはないのです。


にも関わらず、多額の預金残高があったとしたら、誰か近い肉親から財産の移転があった、と推測されるのは当然であり、そこから税務署に目を付けられる、ということになるのです。


夫婦間、親子間の財産の受け渡しは、どうしてもルーズに考えがちです。

しかし、「これは贈与税がかかるのではないか」という気持ちのアンテナを常に貼っておくべきでしょう。さもないと、相続の際に、それらの税問題が一気に噴出してしまうことになります。


夫婦間、親子間で財産の受け渡しをする際には、必ず事前に税理士に相談するのがベターです。



誰だって、自分の子や孫は可愛いものです。


私も娘が二人おりますが、もう可愛いを通り越して、食べてしまいたいぐらいです。

私の両親も、孫(つまり私の娘)二人を、もう一瞬でも目を離すとガブリと食べ始めかねない勢いで愛でております。


我が愛する子に、そして孫に、少しでも財産を残してあげたい、という想いは、人間として当然のことでありましょう(子孫に美田を残さず、という格言もございますが、まあそれはそれとして・・・)。


ですので、その行為自体は決して悪いことではありませんし、咎めるつもりは全くないのですが、そのような行為には常に税金の問題が付きまとうものである、ということは理解しておく必要があります。


相続の実務上よくあるパターンは、亡くなった方が生前に孫名義の預金口座を作り、自らの財産をせっせと送金していた、というものです。

このようなケースは、ほぼ間違いなく、その孫自身は全くその行為を知らなかった、あるいは知っていたとしても、その預金を好き勝手に使うことができなかった(つまり通帳や印鑑はその亡くなった人が管理しており、実質的な管理支配権は孫には無かった)、という状態にあるのが普通です。


そのような孫名義の預金口座は、形式上は孫名義であったとしても、実質的には亡くなった人の財産であったものとして相続財産に加える必要があります。



ですので、相続財産を調査する際においては、その子や孫の名義の財産にも注意を払う必要があるのです。未成年の孫名義の預金残高が異常に多い場合は、間違いなく上記のようなパターンの財産移転行為があったと考えるべきでしょうし、あるいは既に成人して働いている子であったとしても、その年収と比して明らかに多額の預金口座があったとしたら、上記と同様に考える必要がありましょう。


前回と今回で色々と面倒なことを述べましたが、要するに、亡くなった人名義だけではなく、その身内名義の預金口座なども相続財産となる可能性がある、つまり税務調査で狙われる可能性がある、ということは、しっかりと頭に入れておくべきでありましょう。



相続税申告の税務調査で、税務署側が真っ先に疑うのは「家族名義預金」です。

その中でも特に、


1.配偶者(妻)名義の預金口座

2.子名義の預金口座

3.孫名義の預金口座


の洗い出し(つまり取引銀行への反面調査)は徹底的に行われると思って間違いないでしょう。

今回は、その中でも特に上記1について解説します。


一つの例を挙げましょう。

配偶者(妻)は若くして結婚し、その後はずっと専業主婦でした。両親は特に資産家というほどではなく、両親の死後は僅かな財産を相続したのみ。

そして、夫(会社経営者であり、一代で相当な財産を築き上げた)が死去。その時点で、彼女の預金口座には数千万円の残高がありました。

さて、この事例を読んで、どう思われるでしょうか。

恐らくは100人中100人、「夫が妻にせっせと財産を渡していたのだなあ」と思うことでしょう。

そのこと自体は、特に道義的には悪い事ではありません。が、我が国の法律上、その行為には何らかの課税がなされることになります。


どんな課税がなされるかといいますと、二つのパターンが考えられます。


まず、その行為があったことを妻が以前から承知しており、かつその預金を妻が自由に使える状態にあった場合。

その場合は、その預金残高の実質的な所有権は妻に移転したものであると認識されますので、その時点に遡って贈与税が課されます。

贈与税の時効は6年です。6年を超えたら納税義務は逃れられますが、越えてない場合は課税されると同時に、延滞税と加算税が賦課されます。


そして二つ目、その行為自体を妻が知らなかった(夫が妻に知らせず、勝手にやっていた)、あるいは知っていたが、通帳と印鑑は夫が管理しており、実質的な所有権は妻の側になかったものと判断される場合。

このような場合は、その預金口座の形式上の名義は妻ではありますが、実質的には夫の財産であると判断されますので、夫の遺産となります。

つまり、相続税が課されます。


両親から莫大な遺産を相続したわけではなく、かつ働いて稼いだわけでもないのに、なぜか配偶者の財産が異常に多い、という場合は、まず真っ先に税務調査のターゲットとなるでしょう。

相続税申告の前に、配偶者の財産形成がどのようにしてなされたのかをしっかりと押さえて、税理士とよくよく打合せたうえで申告に臨みましょう。



相続税は、他の税目と比較すると、非常に税務調査が入りやすいです。

全申告件数の約3〜4割が税務調査の対象となっており、その大部分(8〜9割)が何らかの形で修正申告する結果となっております。


相続税の申告といっても色々なパターンがあります。

その中で、一体どのような内容の申告であれば調査の対象となりやすいのか。

私なりの拙い経験から、まとめてみたいと思います。



まず、故人の預金口座から頻繁に現金が引き出されているケース。

これは遺産総額の規模に関係なく、問答無用で調査の対象となります。


逆の立場で考えてみましょう。

もしあなたが税務調査官であったならば、そのような預金口座の動きをみて、どう思うでしょうか?


「他の人(子や孫など)名義の口座を開設して、その口座にお金を移し替えて財産隠しをしているのかも・・・」

「自宅に大きな金庫を買い入れて、その中に現金を隠し持っているのかも・・・」

「スイスの秘密口座に送金しているのかも・・・」


最期は半分冗談としても、大体こんなところでしょうか。


要は、意図的に財産を減らして相続税逃れをしてないか、と疑われてしまうのです。

そうなりますと、税務署としては、まず金融機関の反面調査を開始するでしょう。つまり故人、その相続人など身内関係者の名義口座(各銀行、ゆうちょ、証券会社など)を片っ端から調査します。そしてその現金の行先が分かると、ほくそ笑みながら相続人に電話をして、「ご自宅で一度お話を伺いたいのですが・・・」という事態になるのです。


反面調査の結果、もし現金の行先が分からなかったとしても、それはそれで相続人への調査は必ず行われます。相続人から直接色々と質問を投げかける、あるいは自宅の内部を観察することによって、その行先が判明することがあるからです。


私は税務署の手先ではありませんので、上記の通り述べることによって納税者の皆様を驚かせるのは本意ではありません。

要は、そのような事態になっても正々堂々と胸を張れるように、適正な申告を事前に行えばよいのです。


払うもの(=税金)はきちんと払う、という気持ちをしっかりと持って、その現金の引き出しがどこにどう消えたのか、身内に贈与したのか、身内名義の預金口座に移したのか、それとも自宅の金庫に眠っているのか、知り得る限りの情報を税理士に伝えて、適正な処理を行えばよいのです。


例えば、故人が浪費家であり、頻繁に現金を引き出してパチンコ三昧であった、あるいは愛人に貢いでいた、しょっちゅう旅行に行って買い物をしまくっていた、というような事実があるならば、そのような個人の浪費は税金がかかる行為ではありませんから、その旨を税理士なり税務署なりに伝えればよろしいです。


いずれにしても、このようなケースは間違いなく税務署に目を付けられて調査が入りやすい、ということだけは押さえておきましょう。



相続税申告の税務調査で結構論点になりやすい部分なので、ここで触れておきます。


学生あるいは無職など、自ら生活費を稼ぐことができない子に対しては、親がその生活費を工面するのが普通でしょう。

この生活費の工面が、いわゆる「贈与」として贈与税の対象になるかどうか、というのがまず第一の論点になります。


原則として、贈与税の対象にはなりません。


相続税法第二十一条の三(贈与税の非課税財産)
次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの

ただし、条件があります。

あくまでも、その人の生活費(あるいは教育費など)に充てる範囲内において、その都度工面した場合に限られます。


具体例を挙げましょう。

実家が北海道で、東京の大学に通って下宿生活を送っている息子がいる場合。

この息子が東京で生活するためには、毎月少なくとも10万円の仕送りが必要。

で、親はせっせと働き、毎月10万円を預金振込みで仕送りしている。

これはセーフです。この毎月10万円は、贈与税の対象とはなりません。


さて、この仕送り額が毎月30万円であり、その息子は差額20万円を毎月貯金している場合。

あるいは、その20万円を使って株の運用などをしている場合。

これはアウトです。贈与税の対象となります。


相続税基本通達21の3−5(生活費及び教育費の取扱い)

…生活費又は教育費に充てるためのものとして贈与税の課税価格に算入しない財産は、生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。


上記は通達なので、納税者を完全に拘束するものではありませんが、税務署の考え方はこうなんだ、という目安にはなります。



ごくまれに、相続の際、無職の子が仕送り額をせっせと貯金して、その貯金額が結構な金額になっているケースがあります。これはちょっと、どうなんでしょう・・・いくらなんでも仕送りし過ぎじゃないでしょうか?これはさすがに、贈与税なり相続税なり、何らかの形で税を課すことになりゃせんでしょうかねぇ・・・?

と、税務調査の際に調査官から言われることになるでしょう。


仕送りのし過ぎ、援助のし過ぎ、には、くれぐれも注意しましょう。



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