相続コラム

「2013年12月」のコラム

信託のかたちは、大きく次の二つに分類されます。


一つ目は、自益信託です。

自益信託とは、委託者が信託配当を受けとるかたちです。

つまり、委託者=受益者、となります。


例えば地主さん(委託者)が、息子(受託者)に不動産物件の管理を委託し、

その不動産から生じる賃貸収入は地主さんがそのまま受け取り続ける(受益者)、

というようなことです。


二つ目は、他益信託です。

他益信託とは、委託者以外の人が信託配当を受け取るかたちです。

つまり、委託者≒受益者、となります。


例えば地主さん(委託者)が、息子(受託者)に不動産物件の管理を委託し、

その不動産から生じる賃貸収入は娘さんが受け取ることにする(受益者)、

というようなことです。


前回の話で、三人の登場人物(委託者・受託者・受益者)の説明をしましたが、

これらの人物はそれぞれが別人とは限らないのです。

自益信託の場合は、委託者=受益者、ですので、一人二役となります。

場合によっては一人三役、も有り得ます(現実にはまずないと思いますが…)。


これが信託を難しくしている一つの要因です。

しかし「ああ、そういうもんなんだ」と割り切って理解すれば、どうってことありません。


なお実際の信託の現場においては、これら自益信託と他益信託をミックスして活用することが多いです。

まず最初は自益信託からスタートし、その後、もっとぶっちゃけますと委託者の死後、その相続人を受益者とする(他益信託)、というような感じで信託契約を継続させることになります。



信託には、三人の登場人物がおります。


まず委託者です。

委託者とは、元々の財産の所有者のことです。


次に受託者です。

受託者とは、委託者の所有財産を預り、管理・運用する人のことです。


信託とは、

「財産を頼できる人にする行為」に他なりません。


つまり、

託する側の人が委託者であり、

託される側の人が受託者である、

ということになります。


受託者が、その預かった財産を管理し運用することによって、運用益が生じます。

例えば賃貸不動産であれば賃貸収入、あるいは売却益、

例えば預貯金など金融資産であれば受取利息や配当金、などです。


これらの運用益を受け取る人のことを受益者といいます。


一例を挙げます。

大地主であるAさんが、段々と高齢になり、心身の衰えを感じるようになりました。

不安を感じたAさんは、長男Bに「私の財産を預けるからよろく頼む」とお願いしました。

そしてその財産から生じる利益は、孫のCに受け取らせるよう指示しました。


上記の場合、

Aが委託者、Bが受託者、Cが受益者となります。


ただし実際は、いきなり上記のような信託契約を交わすことはしません。

Cに対して莫大な贈与税が課されるからです。

この税務問題についてはまた後ほど解説します。



信託の基本的な仕組みを、具体例で説明します。


Aさんは、賃貸不動産をいくつか所有しております。

Aさんは段々と年齢を重ね、いつまで元気でいられるか不安になりました。

そこで、自分がいつどのような状態になっても不動産を管理し続けられるよう、長男Bに管理を任せることにしました。


もちろん長男Bは二つ返事でOKしました。

よって、今後はこのようなことにすることになります。


1.Aさんが、Bさんに不動産の管理・運用などをお願いします。

   ⇒ これがつまり信託です。

     AさんがBさんを用して、その財産をするのです。


   ⇒ 信託を開始する方法はいくつかございますが、このケースでは

     AさんとBさんとの間で信託契約を締結します。

     信託契約は公正証書により作成します。


   ⇒ Aさんは信託をお願いする側なので、委託者と呼ばれます。


   ⇒ Bさんは信託をお願いされる側なので、受託者と呼ばれます。


2.上記1のうち「不動産の管理・運用」は、いわゆる信託目的と呼ばれるものです。

   ⇒ 信託目的は、信託契約において自由に定めることができます。


   ⇒ 例えば「不動産の管理」だけでなく「運用」、もっと具体的に言うと

     「借入れによる賃貸不動産の建設」なども含めることが可能です。つまり、

     受託者が、委託者名義での積極的な資産形成や運用ができます。

     これについてはまた後日改めて詳しく解説します。


3.Aさんの財産のうち、どれを信託財産にするかは自由に設定できます。

   ⇒ 特定の不動産だけを信託しても構いませんし、

     全財産を信託しても構いません。


4.信託した不動産から生じる信託配当は、従来通りAさんが受け取ります。

   ⇒ 信託配当とは、つまり賃貸収入売却収入など、

     信託財産から生じる収益のことです。


   ⇒ 信託配当を受け取る人のことを受益者といいます。

     このケースの場合、委託者と受益者が同一人物となります。

     これを自益信託といいます。



いくつか重要な論点がありますので、次回以降順次解説していきます。



信託とは、その名の通り、「頼できる人に我が財産をす」ということです。


その起源は、中世のヨーロッパにさかのぼるらしいです。

英国で、一般人が教会に財産を寄付することを禁じる法律が施行され、それを危惧した人々が、その代りに身近な知人や弁護士など他人に財産を預け、その運用収益を教会に寄付するというスキームが生み出されたのが始まりとか。

あるいは十字軍遠征の際、長期に渡り我が家を留守にすることを心配した騎士達が、自宅や金銭などを他人に預けて管理してもらったとか。


我が国においては、明治時代から信託らしきものがボチボチと姿を現わし、そして大正11年に信託法が施行されました。


そして驚くべきことに、その法律は、その後全く改正されませんでした。

時代にそぐわない、しかも昔の古めかしい文言で、何のことやらサッパリ・・・、と我々一般人には全く馴染みの薄いものでした。

○×信託銀行、というように「信託」という日本語の存在そのものは知られておりましたが、さて信託とは一体何のことですか?と聞かれても、すぐ答えられる人は非常に少なかったのではないでしょうか。


そして平成18年、新信託法が改正され、翌19年に施行されました。

現代のニーズに即すべく、その内容はガラリと変わりました。


ちなみに私が今後数回に渡って解説するのは、この新法に関する内容であります。


さて、新法の施行によって、さぞ我が国民に信託制度は普及しただろうなぁ・・・、と思いきや、そうでもないようです。

いくら現代に即して改正されたとはいえ、やはり制度の概要を理解するのはそう容易いものではなく、その知名度において遺言や生前贈与、後見制度等には随分と水を開けられているのが現状です。


それに何より、我々サムライ業を中心とした専門家においても、信託に詳しい人はまだ少ない状況にあります。


確かに、最初は少し取っ付き難いです。

でも、知れば知るほど、実は凄い制度であることがわかります。


続きは次回。



今回から、信託について解説したいと思います。

恐らく来年度以降、私たちにとって一つの大きなムーブメントになる予感があるからです。


平成18年に新信託法が施行されて以来、

「信託はすごい!」「今までの相続対策を根底から覆すものだ!」

と、ごく一部で騒がれた割に、未だ一般的に普及しているとは言い難い状況にあります。


その一番の原因は、信託そのものの仕組みの分かり難さ、にあります。

法改正により今の時代に即した仕組みになったとはいえ、やはり取っ付き難い部分は多くあります。


そこを何とか分かりやすく多くの人に伝えると共に、相続の生前対策としてメジャーな存在に引き上げようとする動きが具体的に始まりつつあります。

そして、実は、その動きの中に私自身も参画しております。


来年からは信託をテーマとしたセミナーの講師を何度か務める予定が入っておりますし、実際にお客様の信託業務をサポートしていきたいと考えております。


さて、信託の具体的な説明に入る前に、「信託を使うとこんなすごいことができますよ」という事例を軽くお知らせします。


【事例1】

遺産分割の禁じ手である「不動産の共有」が、禁じ手でなくなります。

共有名義人のどなたかお一人が受託者になることにより、その受託者の判断で不動産の運用・処分などが容易にできるようになります。


【事例2】

不動産オーナーが認知症になった後も、その所有不動産を活用した相続税対策などを実施することができます。

受託者に運用権限を与えることにより、実質上そのオーナー名義での借入れ&賃貸物件購入等による財産評価の圧縮、小規模宅地特例の適用など、どんどん実施できます。

これは既存の成年後見制度では絶対に不可能なことです。


【事例3】

いわゆる「受益者連続型信託」により、2世代、3世代をまたがる資産継承が可能になります。

私が死んだら、まず遺産を妻へ、そして妻が死んだら子へ、というように。

これは既存の遺言制度では絶対に不可能なことです。


他にもまだまだ沢山あります。

信託を活用することにより、相続対策の可能性が無限大に広がるのです。

続きは次回。



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