相続コラム

「2014年1月」のコラム

Aさんが、自らを受益者とする信託契約を作成した、とします。


その信託契約には例えば、Aさん亡き後は長男Bを受益者として、そして更にB亡き後はBの子Cを受益者とする、というような条項を付すこともできます。


時系列でまとめますと、


第一受益者=A

  ↓

 A死亡

  ↓

第二受益者=B (Aの長男)

  ↓

 B死亡

  ↓

第三受益者=C (Aの孫・Bの子)


ということになります。


このように、Aさん亡き後の受益者を複数定めておく信託のことを後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。


いわば遺言代用信託の進化系みたいなものですが、仮にこの内容を遺言で定めようとすると、A→Bの流れに関しては全く問題ないのですが、B→Cの流れの部分は法的に無効となります。


ご本人様の家族関係、財産状況は様々です。

その状況に応じて、受益者連続信託を活用するのが最もベストである、という局面は多いのではないかと思います。



遺言を活用して信託する方法があります。


公正証書遺言において、「私の亡き後は、遺産をこのように信託してください。」と指定しておく方法です。

そうすれば、ご自身亡き後、遺言執行に合わせて信託が開始されることになります。


なぜそのようなことをする必要があるかといいますと、例えば


「ご自身亡き後、遺族が年老いた配偶者と重度の障害を持つ息子しかいない」


という状態を想像してみて下さい。

このままでは死ぬに死ねない、というのが本音ではないでしょうか。


仮に多額の財産を残すことが可能だとしても、その財産を遺族のために効率良く使えなければ全く意味ありません。


このような状況において、信託の活用を検討してみたいと思います。


・信頼できる身内(甥っ子など)を受託者として、遺産を管理してもらう。

・配偶者と息子を受益者として、毎月一定額の生活費を与える。

・場合に応じてグループホーム等に遺族を入居させ、その費用も遺産で賄う。

・受託者には何かと骨を折らせるので、所定の費用を遺産からお支払いする。


このようにすれば安心ではないでしょうか。

上記の重要なポイントは、「誰を受託者にするか」です。

受託者としてしっかりと機能して頂く必要がありますので、信頼できる人でなければなりません。


受託者が正直ちょっと頼りない場合には、その事務を代行する人や、受託者自身を監督する人などを選任しておくことができます。これについてはまた改めて解説します。



皆様が抱く信託のイメージは、なんとなく「イコール○○信託銀行」ではないでしょうか。


信託銀行は、その名の通り、信託を業務として行います。

当然、お客様から報酬を頂戴します。


このように、信託銀行や信託会社が「業」として受託者になる信託を商事信託といいます。


「業」とは、不特定多数の者を相手とする行為のことです。

商事信託を行うためには、国の認可を得る必要があります。

それ無くして商事信託を行うと、法律違反で罰せられます。


そして、商事信託と相反する定義として民事信託というものがあります。

例えば、不動産オーナーの息子が受託者になる、というような、業として受託者にならない信託のことです。

大抵は身内同士が委託者・受託者・受益者というスキームになりますので、家族信託と言い換えることもできます。


当シリーズは、もちろん「民事信託」を前提として今後解説し続けていきます。

信託銀行のことを説明しても仕方ありませんので。


さて、頭の切れる方は、次のような疑問が湧くことでしょう。


「私が例えば、父、母、叔父、叔母など複数の身内の受託者になって、それぞれ信託報酬をもらうことになれば、これは商事信託になってしまうのだろうか?」と。


結論を申し上げますと、これは商事信託にはなりません。

何故ならば、上記はあくまでも身内だけを対象としたものであり、不特定多数の者を対象としたものではないからです。これは「業」の範疇には入りません。



我々の一般常識は、

「モノの所有権を有する者が、そのモノから生じる果実を得る」

というものです。


果実とは、例えば預金における利息、不動産における賃貸収入または売却益など、

そのモノを所有していることによって得られるご褒美のようなものです。


何を当たり前のことを、と思うかもしれませんが、

信託においては、それが当たり前でなくなります。


信託が開始されますと、

そのモノの所有権が二つの権利に分離されます。

新たな所有権と、そしてもう一つは受益権です。


新たな所有権はさて置き、まず受益権について説明します。

受益権とは、そのモノつまり信託財産から生じる果実を得る権利のことです。


つまり今までは、所有権者が当然のように果実を得ておりましたが、

信託開始後は、受益権を有する者が果実を得ることになります。


そして新たな所有権はどうなるのかと言いますと、

受託者のものとなります。

つまり「この財産は受託者によって信託されてますよ。」という事実を内外に知らしめるだけの形式的な存在と成り果てます。


モノというものは結局のところ、果実を得られること自体に旨味があります。

果実を得られる権利、つまり受益権がその旨味を有することになり、

所有権そのものは全く旨味がなくなります。


例えば100円の不動産を信託した、とします。

信託前は、上記100円の価値とは、イコール所有権の価値でありました。


信託後は、所有権の価値はゼロとなります。

と同時に、そこから分離された受益権の価値が100円となります。


つまるところ、

受益権を制する者こそが信託契約を制する、とでも言えましょうか。




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