相続コラム

「2011年8月」のコラム

任意後見契約は、

その形態によって、更に

将来型契約

移行型契約

の二つに分類されます。

(他にも「即効型契約」というのがあるようですが、ここでは割愛します。)

 

将来型契約とは、

お元気なうちに任意後見契約のみ締結しておき、

いざ自分の判断能力が低下した段階において後見契約が開始される、

というごく一般的なパターンです。

 

移行型契約とは、

任意後見契約と別に財産管理契約を締結し、

まだ判断能力が充分な段階においても、まずその財産管理委託契約により

自らの財産管理などを委託しておき、

やがて判断能力が衰えた時点で任意後見契約にチェンジして引き続き管理してもらう、

というパターンです。

 

頭はハッキリしているが、身体が衰えているような人は、

移行型契約にすることを検討すべきでしょう。

 

ここで財産管理契約に関する注意点を一つ挙げますと、

「お願いする側(ご本人)」と「お願いされる側(管理する人)」だけの契約に

するのは非常に望ましくありません。

何故かと言いますと、「お願いされる側(管理する人)」が不正行為をした

場合、一体それを誰が発見できるのでしょうか?

任意後見制度の場合は、裁判所が任意後見監督人を選任しますので、

その監督人が、後見人の行為を厳しくチェックすることができます。

自らの財産が適切に管理運営されているかどうか、

第三者の厳しい目線でチェックしてもらう仕組みは必ず必要です。

 

昨今、

障害者の施設などで、そこの事務員が入居者の財産を不正に引き出す、

という事件が度々ニュースになっておりますが、

これはそもそも、その施設が入居者の財産管理を第三者に監視してもらう、

という仕組みを導入していないところに大きな問題点があります。

不正を監視する立場の人間(監督人)は、必ず必要です。



任意後見とは、

あなた自身の将来に備えるための備え、つまり「老い支度」です。

その意味においては遺言と相通じるところがありますが、

遺言あなた自身の死後に効力を発するものであるのに対し、

後見あなた自身の生前に効力を発するものである、

という大きな違いがあります。

 

遺言とは、

あなたが遺した財産をご遺族にどう分配するか、

というような、ご自身の死後に発生する様々な諸問題について、

こうやって解決して下さいよ、とご遺族に発するメッセージです。

その効力は、あなたの死亡によって生じます。

 

任意後見とは、

あなたが認知症等になって、自己の判断能力が著しく衰えたとき、

例えば次に掲げるような法律行為を、あなたの代わりに行う人、

つまり後見人をあらかじめ選任しておくことです。

 

 ・財産の管理 (預貯金の引き出しなど)

 ・病院との医療契約、介護施設との介護契約の締結、施設入居の手配

 ・病院代、自宅の光熱費など各種支払い

 ・年金所得の確定申告 など

 

上記のような相違点はありますが、

逆に、共通している重要なことがあります。

それは、いずれもあなた自身がお元気なうちにしなければならない、

ということです。

遺言の作成も、任意後見契約の締結も、

とても大事な法律行為です。

法律行為は、あなたの判断能力がしっかりしている状態でないと、

することができません。

認知症になってしまってからでは遅いのです。

 

現実問題として、ここが非常に難しいところです。

前回も少しだけ書いた通り、

通常、人はいつまでも自分は元気である、と錯覚してしまいますので、

老い支度を検討する、なんてことは簡単に出来ることではありません。

心理的にハードルが高いのです。

しかし、そのハードルをあえて乗り越えないと、

いざあなたが認知症になった後に、

周囲のご親族が慌てて裁判所に駆け込み成年後見の申し立てをする、

あるいはあなたが亡くなった後に、ご遺族が遺産分割で揉める、

という事態を招いてしまいます。

 

この心理的ハードルを乗り越え、

自分が元気なうちに、判断能力が確かなうちに、

やるべきことはしっかりとやらねばならない、

と自覚し、そして実行する。

その大切さを啓蒙するのが我々専門家の役割だと思っております。

 

最後に繰り返し申し上げます。

遺言

任意後見

この二つだけは、あなたがお元気なうちにやらなければなりません。

そしてこの二つをしっかりと的確にやっておけば、

あなたの周囲の人たちの負担はゼロにはならずとも、必ず減少します。

ぜひご検討ください。



成年後見制度に比べて、イマイチ影の薄い

任意後見制度

について、数回に分けて解説していきます。

 

なぜ影が薄いのか。

それは、使い勝手が悪いから、ではありません。

理由はただ一つ。

人は皆、自分が元気なときは、

自分が元気じゃなくなったときのことなんて考えたくないから、です。

 

始めに、二つの後見制度の違いについて簡単に述べておきます。

二つとは、つまり成年後見任意後見です。

 

成年後見とは、

例えばあなたが認知症になってしまったとき、

あなたの親族等が家庭裁判所に後見人の申し立てを行い、

その後見人があなたの代わりに今後の財産管理等をする、

という制度です。

 

任意後見とは、

あなたがお元気なうちに、

「私が認知症になったら○○を後見人にします」という任意後見契約

あらかじめ作成しておき、いざ認知症になったら

その契約に基づいて後見人があなたの財産管理等をする、

という制度です。

 

つまり、少々強引な言い方をすると、

前者成年後見は、切羽詰った状態になってから慌てて行うもの、

後者任意後見は、余裕のあるうちに事前準備をしておくもの、

ということです。

 

自分はいつまでも元気だ! と信じてやまない方々にとっては、

任意後見なんて考えたくもない、自分には関係のないことである、

と思ってしまうのも無理はありません。

しかし、人間ですから、いずれは老いて、亡くなります。

そうなった際のことを考えるにあたって、

任意後見制度は非常に使い勝手の良い制度です。

遺言と共に、ぜひワンセットで検討して頂きたいと思います。



名義預金の名義人が先に亡くなることもあります。

そういう場合の手続きは結構色々と大変です。

 

何が大変かと言いますと、まず金融機関の対応。

金融機関のスタンスは、あくまでも

「法律上の名義が誰それだなんて、我々の知ったこっちゃありません。」

ということで、通常通りの相続手続きを要求します。

つまり、所定の書類に相続人全員の署名捺印をして、

故人の戸籍・相続人の戸籍と印鑑証明を提出します。

 

ここで他の相続人が、

「この預金は名義預金なので我々が相続すべきものではない」

と納得し、本来の名義人がこれを全て受け取る、ということで

すんなりと署名捺印してくれれば良いのですが、

残念ながらそうすんなりといかないケースが多々あります。

ズバリ端的に言いますと、

「判を押して欲しけりゃ分け前を寄こせ」

とハンコ代を主張する相続人がいたりします。

特に相続人が配偶者&兄弟姉妹であるパターンに多いです。

 

このようなトラブルを防止する策として、

その形式上の名義人が遺言を書く、という方法があります。

「私が死んだら、この名義預金は夫が相続する」

としておくのです。

そうすれば遺言執行のみで預金を解約できますので、

他の相続人のハンコ云々は必要ありません。

 

とにかく、名義預金は細心の注意を払いましょう。

私の印象として、深く考えずに軽い気持ちでやる方が多すぎるような気がします。

名義預金は後々トラブルが発生しやすい、非常にデリケートなものです。



資産家である夫が、あまり深く考えずに

妻名義・子名義・孫名義の預金口座を勝手に開設し、

自分のお金をポンポンと入金し、

その夫が亡くなる頃にはとてつもない残高になっていた、

というのはよくある話です。

 

そのような預金は「名義預金」と呼ばれ、

事実上は亡くなった夫の財産として、相続税の課税対象となります。

税務署からも睨まれる行為ですので、正直あまりお勧めできません。

 

が、モノは使いようで、

上手に活用すれば結構それなりに使えたりします。

 

具体例を挙げます。

夫が死亡した事実を銀行が知ると(通常は新聞の死亡記事で判明します)、

銀行はその夫名義の預金口座を凍結します。

つまり、口座からお金を引き出したりすることが一切出来なくなります。

その夫の財産で生活していた奥様などご遺族は、非常に困ります。

そこで名義預金の登場です。

 

夫がお元気なうちにあらかじめ、奥様名義の預金口座を開設し、

その口座にある程度のお金を入金しておきます。

そして奥様には、こう伝えておきます。

「私が死んだとき、当面の生活資金としてこの口座のお金を使いなさい」と。

 

夫が生きている間は、奥様はそのお金に一切手を触れない、

というところが肝心要のミソです。

もし奥様がそのお金を好き勝手に使ってしまうと、

夫から奥様への贈与行為として、贈与税を支払わなければなりません。

 

そして、奥様は、

その名義預金は法律上は夫名義のままである、

ということをよく認識したうえで、

夫が亡くなった後の相続税の申告をする際には、

その預金残高も申告するよう税理士に伝えなければなりませんし、

遺産分割協議の際、もし遺留分などの問題が生じた際には、

その名義預金も考慮した遺留分算定をしなければなりません。

 

上記のようにいくつか注意すべき点はあるのですが、

何よりの最大のメリットは、

ご主人が亡くなっても、奥様名義の預金口座は凍結されない

ということです。

つまり奥様は、ご主人が亡くなった瞬間から、

銀行への気兼ねなど一切なく、その名義預金のお金を使ってよろしいです。

ご自身の生活資金として使ってもよし、

葬儀代、初七日費用などに使っても良し。

 

夫婦間のお金のやり取りは非常にルーズになりがちですが、

(といいますか、人間としてはむしろそれが当然なのですが)

このように相続や税金などの諸問題がございますので、

お二人共にお元気なうちに、しっかりと計画的に話し合っておきましょう。




このページの先頭へ戻る