相続コラム

「相続税」のコラム

亡くなった人が、山林や原野などをゴッソリ所有していた、

というケースがよくあります。

先祖代々の所有であるケースもあれば、原野商法、そこまで悪質でなくとも田中角栄の日本列島改造論で全国が湧きに沸いた時代に勢いで購入した、というケースもよくあります。


大抵、相続人は

「こんなもの貰っても仕方ないよなぁ。」

とウンザリした表情を見せることが多いのですが、

しかし相続財産であることには違いありませんので、相続して頂くしかありません。そこの市町村に寄付したいと仰る方も多いのですが、現金や宅地ならばいざ知らず、今時の市町村は山林や原野をなかなか受け取ってくれません。


ところで、山林は、その名の通り、山であり、その上に木が立っております。

これらはそれぞれ、別々に評価します。


まず山ですが、市町村の固定資産評価額を元に、所定の倍率を乗じて評価します。


そして木、つまり立木(りゅうぼく)ですが、これが非常に面倒です。


相続税の財産評価基本通達では、次のとおり評価方法が定められております。

通常の森林の場合です。


11ha当たりの標準価額×地味級×立木度×地理級×地積=評価額


もう何のことやらサッパリ分かりませんね。

ここで全て解説するとキリがないので、割愛します。


まず重要なのは、立木に限ったことではありませんが、現地調査です。

しかし、山林や原野の場合、そもそも正しい場所がどこなのか判別しにくいケースがよくあります。

特に北海道の僻地だと、穴が開くほど図面を眺めても、一体どこにあるのかサッパリわからない、というのは珍しいことではありません。

何となく「この辺かなぁ」とアタリを付けて車で行ってみたら、途中で道路が途切れて行けなかった、なんてことも…。

もう一つの調査方法は、各都道府県が作成している森林調査簿です。

役所に問い合わせれば、簡単に閲覧し、写し(コピー)を貰えます。

この調査簿に、木の種類や樹齢などの情報が記載されてます。


単なる雑木林だと思っていたのが、意外と高値で売れることもあります。

あまり面倒がらずに、相続を一つの良い機会だと考え、財産の一部としてキチンと見直してみることをお勧めします。



私は決して税務官庁の手先ではありませんが、しかし税理士として、納税者様に対して法に沿った適切な申告納付をして差し上げる義務を有しております。


相続税の申告を承る際、ごくまれに「この財産は税務署に絶対バレないと思いますので、申告財産から外してもらえませんか?」というご相談を受けることがあります。


もちろん大部分のお客様はきちんとした納税義務をお持ちの方ですから、このような相談は本当にごく稀です。


そのような相談を受けた際、私は必ず下記の通り回答します。

道徳論的なこと云々はさて置き、極めて現実的な回答です。


まず税務署というものは、過去数十年間のノウハウの蓄積があります。

何のノウハウかと申しますと、まさに「納税者がどのようにして資産を隠し、納税逃れをしようとするか」というノウハウです。

ですので、小手先三寸の浅知恵は必ず見破られます。


更に、税務署の調査能力は、納税者の想像を遥かに超えます。


もちろん我々税理士も、相続税の申告をする際には、適切な申告をするために最大限の努力はします。

例えば、故人が取引していた金融機関に出向いて過去の取引内容を調べたり、場合によっては配偶者や子など相続人の財産も調査し、生前に財産の移転があったかどうかを調べたりします。

しかし、税理士はあくまでも私人でありますので、その調査能力にはおのずと限界があります。つまり、金融機関が税理士にどこまで協力してくれるかというと、そう簡単に全ての情報を曝け出してくれるわけではないのです。


ですから、我々税理士が最も重視するのは、相続人に対するヒアリングです。「故人から生前に財産を贈与されてませんでしたか?」とヒアリングして、「いや何も贈与されてません。」と回答されればそれを信じるしかありませんし、「故人の預金口座から多額の出金がありますが、このお金はどこに消えたのですか?」とヒアリングして、「いや全く知りません。」と回答されればどうしようもありません。


しかし税務署は国家機関ですから、強い権限があります。金融機関に対して「この人の情報を全て開示してください。」と要求すれば、金融機関側はそれにヘコヘコと応じる義務があります。我々税理士が同じ要求をしてもけんもほろろであるのとはえらい違いです。


税務署の調査官は、場合によっては金融機関の支店内部にまで出張り、故人や相続人の印鑑票、入出金伝票の筆跡、引き出したお金の行き先、貸金庫の開閉記録など全て強制的に調査します。

ここまでやられますと、もう納税者側はグウの音も出ません。


相続税の税務調査は、その申告期限から約2〜3年後です。

忘れた頃に、いきなり電話が鳴ります。

その際に、「私は自らの知り得る情報を全て税理士に伝えて、適切な申告を行っている」という精神状態であるのと、「ああ、あの財産を隠している。バレたらどうしよう。」という怯えた精神状態であるのと、どちらが精神的に健全でありましょうか。

たとえ前者であったとしても、税務調査というものは疲れるものです。相当なストレスを抱えるものです。

これがもし後者であったとしたら・・・そのストレスは想像を絶します。



何度も申し上げますが、私は決して税務署の手先ではありません。

しかし、隠しても、ご自身のためになることは一切ありません。

税理士に全てを開示して、適正な申告を行いましょう。


ごくまれに「俺は隠し事を隠し通せたぜ!」と武勇伝を語る人がいますが、そういう人は、たまたま運が良かっただけです。

世の中全ての人が、ずっと運が良いわけでは決してありません。



前回の続きです。


前回のお話は、相続税の無申告事案が非常に多いため、国税当局がこれを積極的に調査する方針を打ち出した、ということでした。

まあこれ自体は特に間違ったことであると私は思いませんし、法治国家である我が国の国民は法律を遵守する義務がありますから、その法に従って申告するのは当然のことであり、それを守らない人達に対して「ちゃんと申告納税しなさい」と注意するのはお役所として当然の務めです。


が、ちょっと気になる数値があります。


国税庁が毎年公表している、各事務年度における「相続税の調査の状況について」からの抜粋です。


ここ3年度において、無申告調査の件数は、


H21事務年度:626件 → H22事務年度:1050件 → H23事務年度:1409件


と飛躍的に伸びております。

そして、そのうち申告漏れが発見された件数は、


H21事務年度:528件 → H22事務年度:795件 → H23事務年度:932件


と、まあ調査件数に応じて増加するのはまあ当然として、その割合


H21事務年度:84% → H22事務年度:75% → H23事務年度:66%


と、格段に低下しているのです。


ちょっと複雑な気持ちになります。

もうお分かりだと思いますが、税務署が「お前、相続税の申告しなきゃならんのに、してないだろ!オリャー」と実地調査したところ、実はさほど財産が無く、申告する必要が無かった、という、あらぬ疑いを掛けられた人の数も飛躍的に増えている、ということに他なりません。


経験した方は分かりますが、税務署の調査なんて、もう怖くて怖くて、ストレスが溜まって死にそうな気持ちになります。私は税理士なので、これが商売なので慣れておりますが・・・。一般の人達はもう死刑宣告人がやって来た、というぐらいの気持ちになってしまうでしょう。


相続税法60条(当該職員の質問検査権)

4 …(略)質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。


上記の条文はあくまでも建前であって、実際のところは、調査官は犯罪捜査するが如く調査しまくります。


そこまでして納税者に多大なるストレスを与えて、結果として「あなたは無罪でした。どうもすみません。」ていうのは、ちょっと如何なものか…。


眠ったままの莫大な無申告事案を掘り起こすために調査件数を増やすのは仕方ありませんが、その一方で無罪の人達に迷惑をかける件数も増加している、という実態は、決して放置してはならないと私は思います。


税務当局は、この実態に対して、一刻も早く然るべき対処をすべきだと思います。



先日の日経新聞で驚くべき記事がございましたので紹介します。



【相続税無申告932件、1213億円。国税庁調査、過去10年間で最悪】

今年6月までの1年間に実施した相続税の税務調査で、遺産を全く申告しない無申告事案が932件、計1213億円見つかり、件数と金額いずれも過去10年で最も多かったことが13日、国税庁のまとめで分かった。同庁は「無申告は税の公平感を著しく損なう行為」として積極的に調査していく方針。


元会社経営者の遺族が多額の現金を物置に隠すなどして1億4500万円の遺産を全く申告せず、1100万円を追徴課税された調査事例もあったという。

(H24.11.14日経朝刊より抜粋)


多額の相続財産が存在するにも関わらず、遺族が相続税の申告をせず、その後税務署の調査で発覚した事案がこれだけたくさんあるようです。


知っていながらあえて意図的に申告しなかった確信犯もいれば、なかには相続税というものをよく知らなかった善意の方もいるでしょう。ですからこれらの方全員を責めるわけにはいかないと個人的には思います。

ただし、いずれにしても、知らなかったでは済まされないので、払うべきものは払わなければなりません。申告期限後の申告・納付ということになりますと、まず加算税と延滞税が課されます。悪質なケースだと重加算税という最悪のペナルティが課されますし、配偶者控除などの特典を適用できない可能性も有り得ます。


ですので、亡くなった方の財産が相当額ある、と言う事実が分かったら、早めに税理士に相談して下さい。

後になって税務署に調査され、余計なペナルティを支払わなければならないことになってしまったらどうしようもありません。



最期に、税務署はなぜこのような無申告事案を掴むことができるのかをお教えします。


まず、人が亡くなった場合、遺族(または葬儀会社などが代理で)市町村役場に死亡届の手続きを行いますが、その情報は全て税務署に流れます。

税務署は「この人はたくさん財産を持ってそうだ」というアタリを既に付けております。例えば生前の確定申告、過去の勤務先での年収などの情報は税務署内部にたんまり存在しますので。


かつ、所有不動産や預貯金口座など主だった財産を調べます。国家組織ですから、その辺の調査は国家権力で全てやりたい放題です。

ですので、税務署に対して隠し事をすることはまず難しい、と思っておいた方がよろしいです。


それよりも、ペナルティを課されないよう適切な申告を行うことを心掛けましょう。

是非とも、税理士をどんどん利用してください。



故人から親族への財産移転行為は、現金預金によるものばかりではありません。

生命保険を利用した行為も、かなり多いようです。


一例を挙げましょう。


Aさん(男性・60代)は、馴染みの生保外交員から保険の新規加入を勧められました。

そこで、こう考えました。


「どうせなら、自分が契約者になるんじゃなくて、孫を契約者にしよう。」


これは、実際よくある話だと思います。

脱税うんぬんを目的とした行為ではなく、ただ純粋に、孫にこの保険契約をプレゼントしてあげよう、という思いを抱いて契約する方は多いはずです。

そしてAさんは、この保険の契約者・被保険者を孫として、保険金受取人をAさん自身としました。

保険料は一括払いとし、Aさんが全額支払いました。


さて、Aさんが亡くなりました。

この保険契約は、どのような扱いになるのでしょうか?


まず、被保険者が孫になっているのですから、保険事故は発生しておりません。

しかし、Aさんが保険料を一括払いしているのですから、これはAさんが遺した財産である、という可能性がまず考えられます。相続税評価額は、Aさんが亡くなった時点での保険解約返戻金相当額です。

相続後の手続きとしては、受取人を誰か別の人に変更することになります。


もう一つの考え方は、その保険契約を締結した時点で、Aさんから孫に対して贈与があった、というものです。贈与と認定されるには幾つかの要件があります。まず、その契約締結の事実を孫が認識していたこと、保険証書を孫が管理し保管していたこと、などです。

贈与があったとなれば、その時点に遡って贈与税が課されます。ただし贈与税の時効は6年なので、それより前の契約であれば課税を逃れられます(それをお勧めする趣旨ではありません、念のため)。


ちょっと難しい話をしてしまいましたが、要するに、このようなことを頻繁に行っていると、後で税務署に目を付けられますよ、ということだけ押さえておいて頂ければ充分です。



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