相続コラム

「相続対策」のコラム

一例を挙げますと、

夫婦の間に子が生まれました。

父は嬉しさのあまり、その子名義の預金口座を開設しました。
そして少しずつ、その子名義の口座にお金を入金していきました。

父が亡くなった頃、その口座の残高は数百万円に達しておりました。
子は、父の遺品整理をしていたときに、初めてその口座の通帳を発見しました。

これはよくある話だと思います。
さて、これは贈与に該当するのでしょうか?

答えは、「贈与に該当しません」です。
私は税理士なので、あくまでも税務的な考え方に特化してお話しますが、税務上は贈与とは認められず、父の財産となります。

子から父への「ありがとう」が無かったからです。

口座の名義が子であろうとも、実質的には父の財産です。
税務の世界では、形式よりも実質を重視するのです。

生前贈与を友好的に活用したければ、
まずは贈与の要件をしっかり満たすことが必要です。

結論から申し上げますと、
上手に使えば有効ですし、下手に使えば全く意味がありません。

その辺をしっかりとわきまえず、
何の戦略も無しに漠然とやってしまっている例を
私は余りにも多く見てきております。

まずそもそも、
贈与の要件を満たしていないケースが非常に多いです。

贈与とは、民法という法律で定められている行為です。
分かりやすく噛み砕きますと、

あげる人が「あなたにコレをタダであげますよ」

と言い、

もらう人が「ありがとうございます」

と言う。

ただそれだけのことです。

が、それだけの要件が成立していないケースが余りにも多い。
特に近しい身内であればあるほど。
それが世の実態です。

特に、もらう側のスタンスに問題があることが多いです。
はっきりと「ありがとう」という意思を表示していない、ということです。

例えばどういうケースがあるか、については、
次回説明します。

話はまだまだ尽きないのですが、キリが無いので一旦ここでまとめます。

まず皆が真っ先に思い浮かぶ「管理会社方式」は、その実態(実際ホントに管理しているのかどうか)が伴わない限りは、避けた方が無難です。
無理にやったところで、税務署に否認されるのがオチです。

そしてサブリース方式は、空室リスクを充分に検討した上でないと、これもまたお勧めできません。

そうなりますと、一番のお勧めはズバリ、不動産所有方式、ということになります。
ただしこれも、注釈付きです。
個人所有の既存物件を法人に移転するのは相当慎重に判断する必要がありますし、相続税対策として考えるならば相当長期的なシミュレーションで損得勘定する必要があります。

結局何だかネガティブな論評ばかりだな、という感想を持たれてしまいそうな総括ですが、少なくとも私(前島)が今まで見てきた限りにおいて、万年赤字経営だったり、代表者の貸付金が多額になっていたり、上手く経営できていないな、と思わざるを得ない会社が非常に多いのもまた事実なのです。

不動産賃貸業という「事業」を「経営」するわけですから、まさに経営センスが問われるわけです。
舐めてかからず、しっかりと腰を据えて経営に取り組む姿勢が大事です。

不動産所有方式の注意点、その5です。

オーナー個人が法人に対して債権を有している場合、その債権は個人の財産となります。
つまり将来の相続税の課税対象となります。

個人と法人との間で債権債務が生じる理由としては、例えば次のようなケースが考えられます。

・役員報酬の未払い
・法人の借入金返済、固定資産税の支払い等の原資を自力で賄うことが出来ず、
 止むを得ずオーナー個人が法人に拠出した

これらはいずれも、法人の資金繰りが上手く廻っていないことに起因します。
法人が自力で資金繰りを廻すことが出来れば、つまり収益と支出のバランスが上手く取れていれば、このようなことは回避できます。
つまり根本的な経営の問題です。

極端な例を申し上げますと、万年赤字体質で、法人の株式評価はゼロであるにも関わらず、オーナーが法人に対して多額の貸付金を有しており、その貸付金に対して多額の相続税が課される、という笑えない話があります。

このようなケースにならないよう、経営の舵取りはしっかりと行う必要があります。
個人と法人のサイフは明確に区分し、お互い債権債務を有しない状態にするのがベストです。

不動産所有方式の注意点、その4です。

オーナー所有の土地を会社に移転することの是非について。

結論から申し上げますと、積極的にお勧めはしません。

第一の理由として、土地は非減価償却資産です。
建物は減価償却することによって経費化されますが、土地はそれができませんので、買取価格がそのまま帳簿に残るだけの存在になります。

第二の理由として、移転することに伴うコストの発生。
これは前回お話した論点と同じですので省略します。

第三の理由として、移転に伴いオーナー個人の資産価値が増加すること。
原則として時価での移転となりますので、オーナーの資産構成が土地から現金(会社が現金を用意できない場合は、その額に相当する債権)に変わります。つまり額面評価ですので、不動産の評価額圧縮効果が吹き飛んでしまいます。
だったら建物も同じことじゃないの、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、建物の移転は長い目で考えると、今後発生する現金収入を会社に帰属させる効果がありますので、長期的には資産圧縮効果が充分果たせると考えられます。しかしわざわざ土地まで移転させる意味はないと思います。

第四の理由として、いわゆる「無償返還の届け出」を出すことによって、個人所有の土地評価額を80%にすることが可能なこと。
残り20%分は会社の株式評価に反映されるのですが、その問題点は株主構成を見直すことによって回避できるのは以前説明した通りです。

これらの理由等をもって総合的に判断すると、

・土地はオーナー個人の所有
・建物は会社の所有

とするのが効果的ではないかと思います。

最も、様々な事情がありますので、全てのケースにおいて上記の考えが適用されるべきとまでは断言しません。
あくまでもケースバイケースでお考え下さい。


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