相続コラム

「遺言」のコラム

相続のお話とは少々外れますが、最近まれにご相談を受ける「尊厳死」について解説します。


尊厳死とは、現代医学では回復する見込みのない状態になった者が、医師による過度な延命治療を施されることなく、人間として自然な死を迎えることをいいます。


意識が全くない状態で、体中にチューブや機器を巻き付けられて無理やり生かされ続けるのは御免だ、と考える人は多いでしょうし、それを支える身内の心労も多大なるものがあります。


しかしその一方で、医師は、患者を一日でも長く生かせる義務があります。


そこで「尊厳死宣言公正証書」の出番となります。


この公正証書をあらかじめ作成しておけば、いざという状態になったとき、医師に対して「私に尊厳死を迎えさせて下さい」とお願いすることができます。


日本公証人連合会の解説文、文例がございますので、記載します。

http://www.koshonin.gr.jp/ji.html#03


ポイントとしては、まず公正証書にすることです。

その人自身が正常な精神状態で意志表明したものである、ということが保証されます。


そして、最も近い身内の承諾を事前に貰っておき、その旨を文面に記載することです。


さて実際のところ、医師がこの尊厳死宣言を守らなければならない、という義務はありません。医師はその自己判断によって、この公正証書を尊重してもよいし、無視して延命治療を施してもよいのです。

しかしとある調査によれば、医師の9割以上はこの尊厳死宣言を尊重しているようです。


遺言を作成される際には、この尊厳死宣言についても併せてご検討されてみてはどうでしょうか。



危急時遺言要件は、

民法976条でガッチガチに規定されております。

 

1.証人3人以上の立会いをもって

2.その証人の一人に遺言の趣旨を口授する

3.その口授を受けた証人が、これを筆記して、

  遺言者及び他の証人に読み聞かせ(又は閲覧させ)

4.各証人がその筆記の正確なことを承認し、これに署名し、印を押す

 

【 例外1 】 口がきけない者が遺言をする場合

遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述する

 

【 例外2 】 遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合

遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、その筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝える

 

この要件に完璧に当てはまらないとダメなのか?

というと、全くそういうことではなく、

判例によると結構柔軟的に扱われているようです。

 

とある判例。

・立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、遺言の趣旨の口授があったものということができる。

 

他にもこんな判例があります。

 

・遺言書に遺言をした日附ないしその証書の作成日附を記載することは遺言の有効要件ではなく、遺言書に作成の日として記載された日附が正確性を欠いていても、遺言は無効ではない。

 

・筆記者である証人が筆記内容を清書した書面に遺言者の現在しない場所で署名捺印をし、他の証人二名の署名を得たうえ、全証人の立会いのもとに遺言者に読み聞かせ、その後、遺言者の現在しない、遺言執行者に指定された者の法律事務所で右証人二名が捺印をし、もつて全証人の署名捺印が完成した場合であつても、その署名捺印が、筆記内容に変改を加えた疑いを挾む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従つて遅滞なくなされたものであるときは、その署名捺印は民法976条の方式に則つたものとして、遺言の効力を認めるに妨げない。

 

要は、その遺言が、間違いなく遺言者の意志である、

ということが最も重要なことであって、

形式的な部分はかなり融通が利く、と考えてよさそうです。

まあ危急時遺言の場合、場合が場合ですから、

とても形式にこだわっている余裕なんて無い、

というのが我々現場サイドの本音であり、事実でありますから。

この取扱いは有難いことです。




危急時遺言の作成後20日以内に、

家庭裁判所確認の申し立てを行います。

裁判所は、その遺言の内容が遺言者の真意に基づくものである、

との確証を得るために、その遺言の証人や相続人など

利害関係者に対して聴取などを行います。

 

ここでポイントとなるのは、

危急時遺言は一刻を争う危篤時に作成するものなので、

通常は入院中の病室で行うケースが圧倒的に多いはずです。

そこで主治医が同席してくれたら。

いや、いっそのこと証人の一人として署名捺印してくれたら。

それはもう、裁判所が確認するにあたって、非常に強力な武器となります。

主治医の意見は絶大な効果があることでしょう。

 

ところが、これを嫌がる医師が多いのが現実として辛いところです。

署名捺印を嫌がるのはまだ気持ちとして分かるのですが、

同席すら嫌がる医師もいます。

こちらから強制するワケにもいかないので、ちょっと残念です。

特に大規模病院であるほど、この傾向は強いようです。

 

医師がダメなら、せめて看護師さんでも・・・

と思うのですが、余計にハードルが高かったりします。

まあ看護師さんもお忙しいので仕方ないのですが・・・。

 

この件に関しては、

病院側に対して出来るだけ協力して頂けるよう、

我々士業サイドも啓蒙する必要がある、と痛感しているところです。




一般危急時遺言について解説します。

 

その名の通り、

遺言者が危急の時にあるとき、

例えば余命1〜2日で、とても今から公正証書遺言を作る余裕がない、

そんな逼迫した局面において、

証人3名の立会いの元、

その証人のうち1名が遺言者の意志を口頭にて聞き取り、

その意志を筆記して書面にしたため、かつそれを読み上げ、

その書面の内容が遺言者の意志通りであることを残りの証人が確認し、

証人3名全員がその書面に署名捺印します。

 

その後20日以内に、最寄りの家庭裁判所にて、

遺言のコピーなど必要書類を提出し、確認の申し立てをします。

家庭裁判所は、証人を呼び出して事情聴取するなどして、

その遺言が本当に遺言者の意志に相違ないことを調査します。

 

確認を受け、そして更に遺言者が亡くなった後、

上記確認とは別途、検認の手続きを行います。

その後ようやく遺言執行が行われます。

 

・・・

 

実際やってみるとわかりますが、かなり面倒です。

しかし、本当に時間の余裕がないとき、他に選択の余地がないときは

これでやるしかありません。

 

裁判所でも滅多に取り扱われないらしく、

確認の申請に行くと「あれま、随分と珍しい」と

まるで申請者の私が天然記念物でもあるかの如く扱われます。




このような場合には必ず遺言を作成しておくべき、

という典型的なパターンをご紹介します。

 

1.推定相続人配偶者兄弟姉妹である場合

 推定相続人とは、

  「将来自分が亡くなったときに、相続人となるであろう人たち」

 のことです。

 子供がいない、かつ父母が先に亡くなっている夫婦の場合、

 通常、推定相続人はその配偶者と兄弟姉妹となります。

 配偶者に全ての財産を渡してあげたい、と思うのが普通でしょう。

 しかしそのまま放っておくと兄弟姉妹にも相続権がありますので、

 遺産分割協議の際に揉める可能性があります。

 

 ですので、「財産全てを配偶者に相続させる」

 という内容の遺言を残しておけば、

 兄弟姉妹には遺留分がありませんので、

 万事滞りなく配偶者に全ての財産を渡すことが可能となります。

 

2.相続人以外の人に財産を渡したい場合

 例えば、

 身の回りの世話をよくしてくれた義理の妹などに財産をあげたい場合、

 その旨を記載した遺言を作成しておくことができます。

 ただし一つだけ注意してください。

 

 「他の推定相続人の遺留分侵害しないこと」

 これを破ってしまうと、相続発生後は間違いなく戦争勃発です。

 義理の妹さんに余計な気苦労を掛けてしまい、好意が水の泡になります。

 遺贈する金額は、ほんの気持ち程度にしておくこと、

 更に、相続人に対する付言をしっかり記載しておくことをお奨めします。

 

3.先祖代々の土地、自社株式など重要な財産を長子に残したい場合

 別に長子でなくてもよいのですが、

 年功序列で長子が引き継ぐのが最も多いパターンだろうと思います。

 それら重要な財産については長子に相続させる旨の遺言を残すと共に、

 他の相続人が不公平感を抱かないよう、最大限の努力を払いましょう。

 自分を被保険者とする死亡保険契約をできるだけ沢山加入しておき、

 保険金の受取人を、その長子にしておきましょう。

 その長子は、その重要財産を受け取る見返りとして、

 他の相続人に対して相当額の代償金を支払う必要が生じる場合、

 支払原資として、その保険金を活用できます。

 

 生命保険契約はぜひ今一度見直しておきましょう。




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