相続コラム

「相続手続き」のコラム

さて、ここで一つ大きな疑問が出てきます。


「契約の当事者が亡くなった後も、この契約は有効であり続けるのか?」


噛み砕いて説明しますと、例えば


身寄りのないAさん(男性・75歳)が、「自分が死んだ後の始末(葬儀・埋葬・遺品処分など)をよろしく」という契約を、B行政書士と締結した、とします。

この契約が発動されるのは、Aさんが亡くなった時点ということになります。

でも、亡くなった人を当事者とする契約って、本当に効力があるのでしょうか?

Aさんが亡くなった時点で、その契約は無効になってしまう(つまりB行政書士は後始末の業務をすることができない)のではないでしょうか?


ということです。


民法653条(委任の終了事由)

委任は、次に掲げる事由によって終了する。

1 委任者又は受任者の死亡 ・・・(後略)


この論点については、次の最高裁判決がございます。


最高裁平成4年9月22日判決

委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼する委任契約は、委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものであり、民法653条の法意は合意の効力を否定するものではない。


つまり、

自らの死後も継続する趣旨の契約については、その死後においても効力を有し続けるものと判断してよろしい、

ということです。


ですので、契約の文言に、「この契約はAの死後も効力を有するものであることをAとBは合意した」旨の一文を入れておけばよろしい、ということになります。



そもそも何故、死後事務委任契約が必要なのでしょうか?


具体例で考えてみましょう。


A氏(男性・75歳)は、妻に先立たれ、一人娘は米国人と結婚してずっと米国に居住しております(まるでTVドラマのような事例ですが、今や国際結婚は珍しいことではありませんので、実際によくある例です)。


兄弟など親類とも疎遠になってしまい、事実上身寄りはほぼ無い状態です。


さて、このような場合、A氏に何らかの事態が発生すると一体どうなるのでしょうか?


いわゆる「孤独死」状態になってしまいます。


やらなければならない事務作業は山ほどあります。


・葬儀、埋葬

・市役所への死亡届などの手続き

・年金の支給停止手続き

・遺品の処分

・葬儀代、家賃、光熱費、病院代などの支払い etc...


これらの作業を、一体誰がやってくれるのでしょうか?


我が国には「立つ鳥後を濁さず」という格言があります。「誰にも迷惑を掛けず、綺麗に死にたい」という思いは、平均的な日本人ならば当然思うでしょう。


そこで、信頼できる第三者との間で「死後事務委任契約」を結びます。

その契約において、例えば


・葬儀はどの業者に、いくらでお願いするか(宗教はどうするか)

・遺品はどのように処分してもらうか

・各種支払はどのようにお願いするか


というようなことを、全て事前に取り決めておくのです。


例えば葬儀代などは、その内容によって料金はピンキリですが、いざ自分が亡くなったら発生するであろう、それらの費用を、あらかじめ第三者に預けておく方法が考えられます。そうすれば、その事務を執行する人は、その預り金を取り崩して支払えばよいので事務を円滑に遂行できますし、お釣りが出た場合は相続人にお返しすれば良いのです。


身寄りのないお年寄りは今後益々増加すると思われますので、死後事務委任契約のニーズは今後どんどん増えていくと思われます。



我が国の高齢社会化は今後ますます加速し、全人口における比率が急激に高まる老人世代のサポートをどうするかが緊急の課題となっております。


いわゆる2025年問題と言われるものがあります。

2025年(平成27年)は、団塊の世代が75歳を迎え、我が国の高齢者人口はピークに達します。これら高齢者を支えるインフラ(高齢者住宅など)が、現状圧倒的に不足しており、これを2025年までに何とかしなければならない、ということで医療・介護分野双方が躍起になっている状態です。


さて、我々サムライ業がこの問題に対してどう関わっていくか、ということになりますと、まあ色々とあるのですが、やはりまずは「高齢者を如何にして法的に保護するか」が一番重要になってくるのではないかと思います。


例えば、ですが、この問題に対して今現在制度化されているのは


任意後見制度(または法定後見制度)

遺言


この二つが代表的なものでありましょう。


しかしこの二つだけで全ての問題を解決できるかというと必ずしもそうではなく、どうしても隙間が生じてしまいます。

例えば、


「任意後見の効力が発動するまでの間、私の財産管理はどうすれば良い?」

「私が死んだ直後の様々な事務を誰にお願いすれば良い?」


というようなことです。

身寄りのない、あるいはいても疎遠な方にとっては、これは非常に切実な問題です。

そこで、このような隙間を埋める手法として、


財産管理委任契約

死後事務委任契約


というようなものが利用されることがあります。


上記のうち「死後事務委任契約」について詳しく考えてみたいと思います。


死後事務委任契約とは、その名の通り、例えば受任者が亡くなった直後における、入居施設やら病院やら諸々の支払い、お役所への各種届け出、葬儀、埋葬などの事務を、「あなたにお任せします」という内容の契約を生前に交わしておくことです。


一見するととても便利な契約に思えますが、実は結構脆いです。

まず法的な根拠が非常に危うい。

根拠となる法律が存在しませんから、民法など既存の法律を当てはめるしかないのですが、そもそも生前に交わした契約が、その当事者が亡くなった後も効力が続くものなのか?相続人がいる場合、その相続人に対してこの契約がどこまで通用するのか?


例えば、死後事務委任契約において「葬儀は○○社にお願いします」という文言があり、既にその○○社に代金が前払いされていたとしましょう。

その後、その方は亡くなり、○○社がその契約に基づき葬儀を行おうとしたところ、今まで音信不通だった相続人がいきなり登場して「勝手に葬儀をしないでください!前払いしたお金を私に返してください!」と文句を言いだして来たら、一体どうすればよいのでしょうか?


これらの諸問題について、数回に分けて論じてみたいと思います。



普段は極めて温厚な私ですが、たまにはイラッとくることもあります(笑)。

その最たるものが、金融機関の窓口での対応ぶりです。

 

相続の手続きは普段あまり滅多に行われないものなので、その支店(またはその金融機関)によって、慣れ不慣れのレベルの差が著しく現れてしまうのです。

私の経験上、特に顕著なのは郵便局。意外と思われるかもしれませんが、郵便局での相続手続き業務のレベル差はかなり激しいのです。どこかはあえて書きませんが、私が本当に信頼できる局は、近所ただ一つの局だけ。ゆうちょの手続きで郵便局に行く必要があるときは、必ずその局に行くことにしてます。そこ以外の局の多くは相続実務が不慣れで、とても時間がかかってしまったり、的外れでトンチンカンなことをされてしまったりするからです。

 

一般銀行の場合、支店というよりは銀行レベルでの差が激しいような気がします。私の経験上、都市銀行はさすがにどこも慣れております(一つだけ、某○○○銀行の札幌支店は少々不慣れな印象をたまに受けますが・・・)。

相続センターで一括手続きを取る体制を構築している某地元地銀もなかなかの高レベルです。それ以外の銀行、信金は・・・正直、その担当者によってかなり業務レベルの差が激しい印象を受けます。

 

これはひどいなぁ、と感じるのは、被相続人の取引支店が遠方にある場合です。相続人の立場としては、その相続人の最寄の支店で代理手続きをして欲しい、と思うのは当然なのですが、その金融機関(とくに信金・信組)によっては「その支店でないと手続きは一切出来ません」と冷たくあしらわれてしまい、仕方なく私が依頼を受けてその遠方の支店まで手続きをしに行くことがあります。これは何とかならんもんか、と思ってしまいますが・・・。

 

このように金融機関の対応が冷たいのは、理由があります。単なる手続きは一銭にもならないからです。手数料収入が取れるわけでもないし、下手すれば全額解約されて他の銀行に移されてしまいます。業務としての面白みが無いのです。でも、ここは考え物だと思うのですが。ここで誠実な対応をして信頼を勝ち取れば、新たな取引拡大に繋がる可能性は大きいはずです。そこに気付いた都銀や某地銀は、相続センターを立ち上げるなど誠実な体制を構築しているのです。

 

このように、銀行手続き一つをとっても、相続の手続きというものはなかなか奥が深く大変なものです。



相続は、最終的には「被相続人名義の財産」を全て相続人の名義に変更することによって完了します。

ですから、被相続人名義の財産を漏れなく把握することが重要です。

 

ところが、漏れてしまうことが結構あります。

当然といえば当然です。

なぜならば、その人の財産を一番よく分かっているのはその人自身であり、その人自身が亡くなってしまったのですから、遺族が手探り状態で遺品をかき集めて調査しなければなりません。

一つや二つ、場合によっては結構たくさん漏れてしまうことは有り得ます。

 

私の経験上の話を申し上げますと、

まず意外と多いのが生協の出資積立金。

毎月、生協に出資金を積み立てる方は結構いらっしゃるのですが、その方が亡くなりますと、当然その出資金は遺族に返還されますので、相続財産としてリストに加える必要があります。

これが結構漏れていたりします。

ちなみに私は、預金通帳の過去の動きをチェックして、生協から毎月引き落としされている金額があれば、生協に問い合わせて、その出資金の有無を発見します。

 

他にも、隠し(?)預金口座が発見されることがあります。

最近実際に経験したケースですが、ご遺族の作成した財産リストの中に記載されていない某銀行の通帳カバーが何故か遺品の中にありました。その銀行に問い合わせたところ、預金口座が存在することが分かりました。しかも結構大きな残高でした。

結局通帳の現物は見つかりませんでしたが、銀行窓口で取引履歴や残高証明書などを出してもらうことにより上手く対応しました。

 

他にも、不動産が隠れていたりします。

通常はその不動産が所在する市町村から固定資産税の納税通知が届くことによって、その人名義の不動産の存在を確認することができるのですが、ごくまれに(結構あるかもしれませんが)、その不動産の評価額が低いために固定資産税が発生せず、納税通知が発行されないケースがあります。そうなりますと遺族は、金庫など遺品を漁ってその不動産の権利証を見つけるしか方法がありません。故人がちゃんと分かりやすく保管してあればよいのですが、遺品がグチャグチャな状態だと見つからないことも考えられます。

「確か、A村に小さな山林を所有していた筈なんだけど・・・」と目当たりが付く場合は、そのA村の役場の固定資産税課で名寄帳を取り寄せて調べる方法があります。

 

他には過去数年間の預金口座の取引をチェックし、遺族の身に覚えのない保険会社から保険料が引き落とされている場合、その保険会社に確認することによって、実は保険契約が存在していた、というようなこともあります。預金通帳の取引履歴は、隠し財産の宝庫です。

 

このような感じで、隠し財産を探し出すのも我々プロの仕事の一つであると私は考えております。



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