相続コラム
「信託」のコラム
札幌の相続ブログ 信託入門 その23 〜 債務の信託は可能か? 〜
2014年05月11日
結論から申し上げますと、不可能です。
信託の対象となるのは積極財産(金融資産、不動産など)であり、消極財産(借入金など)を信託することはできません。
ただし、債権者との利害調整により、できるだけ理想の形に近づけることは理論上可能です(実際は結構難しいですが)。
ローン付きの賃貸アパートを信託する、という具体例で説明しましょう。
賃貸アパート自体を信託することは全く問題ありません。
要は、ヒモ付きのローンをどうするか、ということです。
アパートと一緒に、ローンも委託者から受託者に名義変更できればよいのですが。
(これを「債務引受」といいます。)
債務引受には、次の二つの方法が考えられます。
・免責的債務引受 (新債務者が全ての債務を背負い、旧債務者はその責任を逃れること)
・重畳(ちょうじょう)的債務引受 (旧債務者も引き続き債務を背負うこと)
債権者の立場からすれば、後者の重畳的債務引受の方がいいに決まってます。
もし何か不測の事態が生じれば、受託者(新債務者)だけでなく委託者(旧債務者)に対しても弁済請求することができますから、リスクの軽減につながります。
免責的債務引受だと受託者だけが債務を背負いますので、受託者の資力だけが拠り所となります。
金融機関のスタンスは、このような場合、重畳的債務引受にするのが大原則です。
これを免責的にするのは相当骨が折れる交渉となります。
時間をかけてじっくりとスキームを練り、金融機関にも積極的にスキーム構築に参加させる等の事前対策が必要でしょう。
札幌の相続ブログ 信託入門 その22 〜 収益受益権と元本受益権 〜
2014年05月04日
賃貸不動産などの収益物件によって得られる利益は、大きく次の二つに分けられます。
キャピタルゲイン … 元本を売却することによって得られる利益
インカムゲイン … 配当、利息などの運用益
通常これらは一体不可分のものでありますが、信託を活用することによって、これらを分離することができます。
いわゆるキャピタルゲインに相当する部分つまり元本を受け取る権利は「元本受益権」として、インカムゲンに相当する部分つまり配当等を受け取る権利は「収益受益権」として、それぞれ別個の権利とすることが可能です。
問題はこれらの権利をそれぞれどう評価するかですが、一般的には次の通り評価します。
収益受益権 = 将来得られるべき収益の額をそれぞれ現在価値に割り戻した額の合計
元本受益権 = 財産の評価額 − 収益受益権の評価額
現在価値とか何やら難しい言葉が登場しましたが、面倒なのでここでの説明は割愛します。
札幌の相続ブログ 信託入門 その21 〜 受益権の譲渡 〜
2014年04月27日
受益者が有する受益権は、他の第三者に譲渡することができます。
例えば、自宅の土地建物を信託していた、とします。
この土地建物の(形式上の)名義人は受託者ですが、実質的な価値たる受益権は受益者が有することになります。
では、この受益権の価値は一体いくらであるか、といいますと、まあ普通に考えれば、その対象物である土地建物の売買時価ということになりましょう。
仮に、この土地建物を売るとすれば、だいたい1千万円ぐらいが相場である、としましょう。
そうなりますと、受益権の価値も同じく1千万円であると考えることができます。
これが第三者間で受益権の譲渡価格を決定する際の相場となりましょう。
ところで、信託スキームは、信託行為(信託契約など)の記載事項が何よりも優先されます。
もし信託契約に「受益権を譲渡してはならない」と記載されていれば、譲渡することはできません。
ただし第三者への対抗要件というものがあります。
譲渡した第三者が善意(つまり受益権の譲渡禁止事項を知らなかった)であれば、その第三者を保護するため、譲渡は有効となります。
札幌の相続ブログ 信託入門 その20 〜 帳簿等の作成について 〜
2014年04月21日
受託者は、信託行為に関する会計をきっちりとやる必要があります。
会計、です。
お手軽な家計簿みたいなものを連想してはいけません。
・複式簿記に基づく会計帳簿
・貸借対照表
・損益計算書
を作成しなければなりません。
一般的な株式会社などが採用する企業会計とほぼ同レベルが求められます。
正直申し上げますと、受託者自身が太刀打ちできるレベルではないと思います。
私がこういうことを書くと、なんだか宣伝みたいで大変恐縮なのですが、やはり税理士にお願いするのが無難だろうと思います。
信託財産の中に、例えば賃貸アパートのような収益物件がある場合には、いずれにしても不動産所得の確定申告しなければなりませんので、まとめて税理士にお願いすればよいでしょう。
なお、次に掲げる信託については、より詳細な書類を作成することが求められます。
・限定責任信託
・受益権の譲渡に関する制限のない信託 など
具体的には、上記に掲げた帳簿等の他、信託概況報告、付属明細書、減価償却方法や引当金計上基準などを記載した注記表を作成することになります。
もう素人の方には太刀打ちできるレベルではありません。
これらの書類は、10年間保存しなければなりません。
また、受託者はこれらの書類を受益者に報告しなければならず、かつ受益者はこれらの閲覧を求めることができます。
札幌の相続ブログ 信託入門 その19 〜 信託の内容を変更する場合 〜
2014年04月14日
信託を開始した後、その信託の内容を変更することは出来るのでしょうか?
まず信託契約等において「○○○の同意があれば変更できる」等の定めがあれば、その定めに従うことになります。
上記の定めが無い場合は、少々面倒です。
原則として、委託者・受託者・受益者全員の同意が必要となります。
つまり、遺言信託のような、委託者が存在しないスキームにおいては、変更不可能ということになります。
また受益者が複数存在する場合には、それら全員の合意が必要です。
以上が原則ですが、例外はあります。
信託契約等には「信託の目的」すなわち「この信託によって達成すべき重要な事柄」があります。
例えば「障害をもつ次男の生活を安定させるために信託財産を活用する」というようなことです。
この信託目的に反しない程度の軽微な変更であれば、全員の合意がなくてもよいことになっております。
具体的には
1.原則
… 受託者および受益者の合意により、委託者に通知する
2.受益者の利益に適合する場合
… 受託者の合意により、委託者および受益者に通知する
3.受託者の利益を害さない場合
… 受益者から受託者に意思表示し、かつ受託者が委託者にその変更内容を通知
4.受託者の利益を害しない場合
… 委託者および受益者の合意により、受託者に通知する
まあ結局は面倒ですので、信託契約等に最初から盛り込んでおく方が無難です。