相続コラム

「その他」のコラム

今回の相続税改正案は、決して納税者にとって厳しい内容ばかりではありません。

今まで説明した通り、二世帯住宅や老人ホーム入居者など昨今の日本人の在り方に配慮した内容も含まれておりますし、これから説明するように、未成年者や障害者など社会的弱者に対する配慮もなされているようです。


現行の相続税法においては、相続人のなかに未成年者(20歳未満)や障害者がいる場合、それらの人達の相続税額を減らすことができます。


まず未成年者控除ですが、その人が20歳になるまでの年数×6万円の控除が認められております。

例えば、16歳の未成年者がいる場合、20歳−16歳=4年ですから、その4年に6万円を乗じた24万円が控除額となり、その額だけ相続税が安くなります。


これが、改正後は、×10万円となる予定です。つまり上記の例でいうと、4年×10万円=40万円が控除額となります。


以下は蛇足ですが、未成年者は単独で法律行為をすることができません。

未成年者の法律行為は、原則として法定代理人が行います。

法定代理人になるのは、通常はその未成年者の親です。


しかし、相続においては、その親も同時に相続人であるケースも珍しくありません。例えば、ご主人が亡くなり、その相続人が妻と子(未成年者)である場合などです。

そのような場合は、「利益相反」という状態になります。つまり妻と子がどちらも相続人として利益を得る立場にありますので、この状態で仮に妻が子の法定代理人になってしまうと、その妻が自らに有利な遺産分割を勝手にしてしまう可能性があります。


そこで、このような利益相反状態である場合は、裁判所に「特別代理人」を選定してもらうことになります。利益相反の関係でない全くの第三者が法定代理人になることによって、その妻と特別代理人が遺産分割協議を行い、双方にとって公平な遺産分割を行うことが可能となります。


特別代理人は、親戚関係者など身内がなることもありますし、弁護士のような専門家がなることもできます。どちらもそれぞれメリット・デメリットがありますので、ケースに応じてよくよく検討すべきでしょう。



高齢になって心身の能力が低下し、住み慣れた自宅を離れて老人ホームに居住することは決して珍しくありません。


そのような状況下で亡くなった場合、その自宅敷地に対して小規模宅地の特例を適用できるかどうかは、非常に悩ましい問題です。

故人の住民票が老人ホームに移されており、名実ともに老人ホームが「終の棲家」であったものと判断される場合には、それ以前に居住していた自宅の敷地については小規模宅地の特例を適用できない、というケースが多くあります。


今回の税制改正大綱では、次のように記載されております。


「老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件が満たされる場合に限り、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例を適用する。


 イ 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。

 ロ 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。     」


この改正が実現されれば、高齢者は安心して老人ホームに入所することができますね。


ただし記載のとおり、その自宅が他の第三者に貸し付けられていたらアウトです(貸付け用の小規模宅地特例を使えることにはなろうかと思いますが、減額の効果はガクッと下がります)ので、ご注意下さい。


あと、この規定はいわゆる老人ホームだけではなく、他の施設形態、例えばグルームホームやサ高住などに入居する場合においても適用されるのかどうかが気になるところです。

私個人の見解としては、グループホームはある程度認知症が進んだ状態での介護を前提としているのでOKだろうと思いますが、サ高住は比較的元気なうちに入居するケースも想定されますので難しいかもしれない、と思っております。



今や二世帯住宅は珍しいものではありません。


故人名義の二世帯住宅を相続する際における小規模宅地特例の適用は、今までずっと悩ましい問題でありました。

現状、法律上きちんと明記されているわけではありませんが、東京国税局が次のような見解を出しておりますので、おおむね実務上はこの見解に沿って判定することになっているかと思われます。


1.二世帯住宅の内部で、双方の世帯が互いに行き来できる構造である場合


このような場合は、事実上一世帯で同居しているのとほぼ同じであると認められますので、その片方の世帯主である子が相続した場合には、小規模宅地の特例が適用されます。


2.二世帯住宅の内部で、双方の世帯が互いに行き来できない構造である場合


つまり外に出て別々の玄関から入らなければ、双方行き来できないケースです。

このような場合は、双方全く別の住居であるも同然ですので、その片方の世帯主である子が相続した場合においても、小規模宅地の特例は適用されません。

ただし例外として、故人が他の相続人と同居していなかった場合には、適用できるものとされております。


今回の税制改正大綱においては、上記2のような場合であっても、原則例外なく、全てその片方の世帯主である子が相続した場合は小規模宅地特例が適用される、としております。


「一戸建てならば二世帯住宅」が当たり前となりつつある現状に即した改正と言えましょう。



小規模宅地の改正事項に関する続きです。


前回解説した内容は、特定居住用宅地等を相続した場合の小規模宅地特例の限度面積が、従来の240平米から330平米に拡充される、というものでした。


この小規模宅地の特例は、他にも特定事業用宅地等を相続した場合の特例、というものがあります。その名の通り、個人事業者などが事業の用に供していた財産を相続し、引き続きその事業を承継する場合など一定の場合に、最大400平米まで80%減額する、というものです。


現在の制度においては、これら特定居住用宅地等(限度面積240平米)と特定事業用宅地等(限度面積400平米)を併用する場合においては、一定の制限が設けられております。


例えば、相続財産のうち


故人の居宅用宅地 200平米

故人の事業用宅地 200平米


があったとします。

この場合、上記のうち特定居住用宅地200平米につき小規模宅地の特例を使ってしまうと、


限度面積240平米−200平米=残り40平米


もう一方の事業用宅地で小規模宅地の特例を使える余地は、


40平米×5/3=66.6666・・・平米


という制限が加えられることになります。


これが、大綱の改正案によれば、上記制限が撤廃されることになりそうです。

つまり上記の例でいけば、


居住用宅地 200平米(≦限度330平米)

事業用宅地 200平米(≦限度400平米)


これら全てに対して小規模宅地の特例を最大限利用できる、ということです。


今回の内容は少し難しすぎましたね。ごめんなさい。

次回からはもっと優しい内容になります。



今回の税制改正大綱において、相続税は基本的に増税する方向で検討されておりますが、決してそればかりではありません。中には納税者にとって有利に改正する動きも一部ございます。


具体的に申し上げますと、


1.小規模宅地の特例のうち「特定居住用財産の特例」の対象要件を拡充

2.未成年者控除、障害者控除を拡充


の二点です。

今回は、上記1について解説します。


この特例は、被相続人(つまり亡くなった人)が居住していた不動産を、その配偶者または同居していた子が相続するなど一定の要件を満たした場合、その土地部分の評価額のうち、240平米までの部分を80%減額する、というものです。


具体例を挙げます。


被相続人の自宅を、その配偶者が相続するものとします。

その自宅の土地面積は300平米、土地の評価額は900万円です。


この場合、小規模宅地の特例を使うことにより、土地の評価が次の通り減額されます。


900万円×(240平米÷300平米)×80%=576万円


つまり土地の評価額900万円から576万円を減額した324万円だけが、相続税の課税対象となります。


これが今回の大綱で、330平米までこの特例を使えることになりそうです。

つまり


900万円×(300平米÷300平米)×80%=720万円


減額される額は、720万円−576万円=144万円も増加します。

つまり相続税が減ります。


そもそも、この特例の主旨は、相続人の生活の拠り所となっている自宅に対する課税負担を減らして守ってあげよう、というものです。


相続税の基礎控除額が下がることによって、相続税の課税対象となる人は急激に増加するものと思われます。そのような人達が、多大な納税負担によって自宅を手放す事態にならないよう、今回の拡充措置が検討されたのだろうと思います。


注意すべき点として、この特例は、申告することが要件となっております。

つまり、この特例を使うことによって、結果として相続税がゼロ円となるケースが多く発生すると思われますが、そのような場合であっても相続税の申告はきちんと提出する必要がある、ということです。

くれぐれもご注意ください。


まだ続きがあります。

次回をお待ちください。



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